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秋田地方裁判所 昭和62年(わ)30号 判決

本店の所在地

秋田県能代市南元町一番三九号

有限会社ワールド

(右代表者代表取締役 山内博)

本籍

同県同市景林町八三番地

住居

同県同市南元町一番三九号

会社役員

山内博

大正一一年九月二四日生

被告会社に対する法人税法違反、被告人山内に対する所得税法違反、法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官大橋弘文出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告会社有限会社ワールドを罰金一八〇〇万円に、被告人山内博を懲役一年六月及び罰金一八〇〇万円に、それぞれ処する。

被告人山内において、右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人山内に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人山内博は、秋田県能代市元町五番一七号及び同市西大瀬三〇番四号にそれぞれ店舗を設けて遊技場(パチンコ店)を経営していたものであるが、所得税を免れようと企て、売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五七年一月一日から同年一二月三一日までの所得金額が一億六、九八〇万九、八〇四円で、これに対する所得税額が一億一、〇七〇万六、一〇〇円であったのに、同五八年三月一五日、同市盤若町一番一二号能代税務署において、同税務署長に対し、みなし法人所得金額が五、〇六一万一、八八八円、所得金額が四、三二七万三、五九三円でこれらに対する所得税額が三、五八四万八、一七四円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額七、四八五万七、九〇〇円を免れ

第二  被告会社有限会社ワールドは、同市南元町一番三九号に本店を置いて遊技場(パチンコ店)の経営等を目的とするもの、被告人山内博は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人山内は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

一  昭和五七年一〇月一日から同五八年九月三〇日までの事業年度における所得金額が一億九、〇四九万五、七三三円で、これに対する法人税額が七、八六八万五、一〇〇円であったのに、同五八年一一月三〇日、前記能代税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、五六二万七、二三〇円で、これに対する法人税額が九四七万三、〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額六、九二一万二、一〇〇円を免れ

二  同五八年一〇月一日から同五九年九月三〇日までの事業年度における所得金額が一、八九八万五、二八一円で、これに対する法人税額が七二二万七、四〇〇円であったのに、同五九年一一月三〇日、前記能代税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六三七万八、六六〇円で、これに対する法人税額が一九六万八、〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額五二五万九、四〇〇円を免れ

三  同五九年一〇月一日から同六〇年九月三〇日までの事業年度における所得金額が二、五四三万六、五五四円で、これに対する法人税額が一、〇〇二万六、一〇〇円であったのに、同六〇年一一月三〇日、前記能代税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七九六万六、七二一円で、これに対する法人税額が二四六万五、八〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額七五六万三〇〇円を免れ

たものである。

(なお、修正損益計算書は別紙(一)ないし(四)のとおりであり、税額計算書別紙(五)ないし(八)のとおりである。)

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  山内幸の検察官に対する供述調書

一  袴田喜一郎の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  被告人山内の当公判廷における供述並びに検察官に対する各供述調書

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の売上調査書、経費調査書、雑収入調査書(以上所得税法違反嫌疑事件に関するもの)、未納事業税調査書、専従者給与調査書、専従者控除額調査書、事業主報酬調査書、みなし法人所得調査書、利子所得調査書、不動産所得調査書、その他事業所得調査書、配当所得調査書、給与所得調査書、雑所得調査書、所得税の修正申告書謄本及び青色申告の承認の取消通知書謄本(所得税に関するもの)

判示第二の一ないし三の各事実につき

一  大蔵事務官作成の売上調査書、経費調査書、雑収入調査書(以上法人税法違反嫌疑事件に関するもの)、仮払税金調査書、未払税金調査書、受取利息調査書及び青色申告の承認の取消通知書謄本(法人税に関するもの)

判示第二の一の事実につき

一  大蔵事務官作成の昭和五八年九月期の修正申告書謄本

判示第二の二の事実につき

一  大蔵事務官作成の昭和五九年九月期の各修正申告書謄本

判示第二の三の事実につき

一  大蔵事務官作成の昭和六〇年九月期の各修正申告書謄本

(法令の適用)

被告会社有限会社ワールドの判示第二の一ないし三の各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金一八〇〇万円に処し、被告人山内博の判示第一の所為は所得税法二三八条一項、二項に、判示第二の一ないし三の各所為はいずれも法人税法一五九条一項、二項にそれぞれ該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条二項により判示第一、第二の一ないし三の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役一年六月及び罰金一八〇〇万円に処し、同被告人において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、さらに同被告人に対し情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、二つのパチンコ店の実質上の経営者である被告人山内が、昭和五七年一月から同六〇年九月までの間所得税一期分、法人税三期分合計一億五六八八万円の所得税、法人税を免れたという事案であって、そのほ脱額は巨額であり、ほ脱率も約七六パーセントと高率にのぼる。その手段、態様も、被告人山内において、コンピューターを操作し、売上げの一部を除外するなどし、これを簿外の預金口座に入金して蓄積したり、金地金の購入に当てたりするなど、大胆かつ巧妙、悪質である。また動機の点についても、同被告人において、フィーバー機ブームが去った後の不況時に備え、あるいは同業者との過当競争に勝ち抜くため、さらには子供達への生活援助、自己の老後の生活維持などのため、隠し財産を蓄積しておこうとしたものであり、所詮は私利私欲を追求し自己の利益を拡大せんとするに帰するのであって、格別斟酌すべきものといえない。

いうまでもなく、租税は所得のある者がその担税力に応じてひとしく負担すべき義務であるところ、所得を偽り不正に税を免れる行為は、申告納税制度の根幹を揺かし国家の財政基盤を侵害するばかりでなく、大多数の善良な納税者の納税意欲を甚だしく阻害させるものであって、社会に及ぼす悪影響も著しいといわざるをえない。前示のように本件のほ脱額が極めて巨額であることにかんがみると、本件においては、その影響はことのほか大きく、この点も本件の犯情として看過することはできない。

以上の諸点からして、被告人の本件所為は厳しい非難に値するものであり、これに対しては厳罰をもって臨むのが相当と考えられる。

しかしながら、他面、本件においては、違反に伴う修正本税、重加算税、延滞税等相当程度の金員が既に納付済みであり、残額についても、一日も早く納付する旨被告人山内において誓っていること、同被告人及び被告会社において、本来納付すべき本税のほかに巨額の重加算税、延滞税等を課されたことにより、多大な経済的制裁を受け、また新聞、テレビ等を通じ本件が広く報道されたことにより、被告人山内において相応の社会的、精神的制裁を受けていること、同被告人において改悛の情も顕著に認められること、同被告人にはこれまで前科、前歴がないこと、その他同被告人の年令等、被告人に有利に斟酌すべき情状も認められる。

そこで、以上有利不利一切の諸事情を総合勘案して、主文のとおり量刑した。

(裁判官 小田部米彦)

別紙(一)

修正損益計算書

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

自 昭和57年10月1日

至 昭和58年9月30日

〈省略〉

別紙(三)

修正損益計算書

自 昭和58年10月1日

至 昭和59年9月30日

〈省略〉

別紙(四)

修正損益計算書

自 昭和59年10月1日

至 昭和60年9月30日

〈省略〉

別紙(五)

〈省略〉

別紙(六)

〈省略〉

別紙(七)

〈省略〉

別紙(八)

〈省略〉

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